DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
「それでいい。的確な判断だ。もし君が私を助けようとしても、私は君を突き放して自分だけ逃げるかも知れないのだから。自ら命を捨てる事は無い」
直後に口角を引き上げたその顔は、何故か微笑んでいた。
「そうだ。もう一つ君に言っておく事がある。君の父親が処分した物の事だ。その中に、誕生日や結婚記念日に妻へ贈った宝飾品がいくつもあった。母親の形見だ。きっと君も見覚えがあるはずだから、探すといい」
刹那――
まるで神部の言葉が終わるのを待っていたように、船室の天井が抜け落ちる。
重たい金属がぶつかり合い、重なり合う激しい衝撃音と共に一迅の風が巻き起こる。
千聖は顔を背けてそれをやり過ごすと、船室に向かってもう一度叫んだ。
「神部ぇえええぇっ !!」
ぽっかり空いた船室の上部から、真っ黒い煙りが入り込んで来る。
帰ってこない答えに首を横に振り、千聖は踵を返して階段へ向かった。
あの出血で、あの状況――
神部はおそらく助からない。
なのに神部は笑っていた。
生きて裁かれるより、死を選んだというのか?
それに最後のあの言葉。
いったいどういうつもりだったのだろう?
けれどもう、今となっては神部の真意は分かるはずも無かった。
階段を一気に駆け上り、デッキへ出る。
クレイドル号は既に傾き、その船体からは真っ黒な煙を濛々と噴き上げていた。
「未央!」
「千聖!」
「待たせたな」
不安そうに手摺に掴まっていた未央を抱き寄せると、未央は階段へ目をやって問い掛けた。
「あの人は?」
千聖は一瞬まを置き、首を横に振った。
未央はつい今しがた響いた轟音を思い出し、それ以上は問わなかった。