DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~

(その病人をあいだに挟んで何やってるんだよ、おまえら――)

 千聖はそう言いたいのを我慢して、クルリと向きを変えリビングの方へ歩き出した。

「千聖、大丈夫?さっきより顔色悪くなったみたい」

 直ぐに未央が駆け寄り、心配そうに顔を覗き込む。

 千聖は睨み合っている真紀子と瞳をチラリと見遣ってから、苦笑を漏らし肩を竦めた。

「ベッドに入るよ」

「そうね、その方がいいね」

「未央、もう行っていいよ。コンサートに間に合わなくなる」

「でも――」

 千聖の言葉尻を捉えて、真紀子が訊く。

「あら、未央さんボーイフレンドとお出掛けだったの?いいわねぇ。あなたたち同い年?」

「ええ、同級生です」

 響が答えた。

「そうなの。じゃあ話も合うし、バッチリね」

(『バッチリ』って何がだろう?)

「はい、それはもう」

 首を傾げた未央を他所に、響は上機嫌だ。

「今夜はクリスマスだし、頑張りなさい。一気よ、一気!」

「はい!一気に行きます!」

「元気いいわね。それでこそ男よ。いい?押し倒すくらいの気持ちで行くのよ!」

「はい!一気に!」

 ハイテンションな真紀子につられて、響もハイテンションで答えた。

 今にも拳を振り上げんばかりの勢いだ。

(響まで……もうわけ分かんないわ)

 軽く首を横に振り、溜め息をついて千聖に目を遣る。

 ベッドに腰を下ろした千聖の傍には、瞳が張り付いていた。

「私がお世話して差しあげますから、安心して休んでくださいね」

「お花を頂けただけで十分です。ただの風邪ですから」

 無理に笑みを浮かべた千聖に向かって、瞳が首を横に振る。

「風邪だからって、油断は禁物ですわ。それに、遠慮なんてなさらなくていいんですのよ。私と千聖さんの間柄ですもの。何でも仰ってくださいな」

「間柄……って」

 額に手を当てたまま、千聖は瞳に目をやった。


< 341 / 343 >

この作品をシェア

pagetop