DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
(その病人をあいだに挟んで何やってるんだよ、おまえら――)
千聖はそう言いたいのを我慢して、クルリと向きを変えリビングの方へ歩き出した。
「千聖、大丈夫?さっきより顔色悪くなったみたい」
直ぐに未央が駆け寄り、心配そうに顔を覗き込む。
千聖は睨み合っている真紀子と瞳をチラリと見遣ってから、苦笑を漏らし肩を竦めた。
「ベッドに入るよ」
「そうね、その方がいいね」
「未央、もう行っていいよ。コンサートに間に合わなくなる」
「でも――」
千聖の言葉尻を捉えて、真紀子が訊く。
「あら、未央さんボーイフレンドとお出掛けだったの?いいわねぇ。あなたたち同い年?」
「ええ、同級生です」
響が答えた。
「そうなの。じゃあ話も合うし、バッチリね」
(『バッチリ』って何がだろう?)
「はい、それはもう」
首を傾げた未央を他所に、響は上機嫌だ。
「今夜はクリスマスだし、頑張りなさい。一気よ、一気!」
「はい!一気に行きます!」
「元気いいわね。それでこそ男よ。いい?押し倒すくらいの気持ちで行くのよ!」
「はい!一気に!」
ハイテンションな真紀子につられて、響もハイテンションで答えた。
今にも拳を振り上げんばかりの勢いだ。
(響まで……もうわけ分かんないわ)
軽く首を横に振り、溜め息をついて千聖に目を遣る。
ベッドに腰を下ろした千聖の傍には、瞳が張り付いていた。
「私がお世話して差しあげますから、安心して休んでくださいね」
「お花を頂けただけで十分です。ただの風邪ですから」
無理に笑みを浮かべた千聖に向かって、瞳が首を横に振る。
「風邪だからって、油断は禁物ですわ。それに、遠慮なんてなさらなくていいんですのよ。私と千聖さんの間柄ですもの。何でも仰ってくださいな」
「間柄……って」
額に手を当てたまま、千聖は瞳に目をやった。