DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
(俺と彼女の間柄って……何だ?)

 熱で頭がボーっとして、言われた意味がよく分からない。

 瞳はしばらく千聖を見つめた後、少し頬を染めて微笑んだ。

「あら、お忘れですの?千聖さんは、私の花婿候補だと申し上げましたでしょう?それにほら、船上パーティーの時、花火の下で情熱的なキスをして下さったじゃありませんか」

「あ………」

 千聖は思わず顔を上げて未央を見た。

 しっかりと目が合う。

(この人が、あの時の人……)

 【ワンダー・イーグル】を中野大橋の上で回収した時に見た情景が頭を過ぎり、途端に未央はクルリと背を向けてリビングへ戻ろうとした。

 千聖が急いで立ち上がる。

「未央――!」

「それがどうしたの?」

 足を踏み出そうとした千聖の前に、今度は真紀子が立ちはだかった。

「キスくらい何よ。そんなのほんの挨拶じゃない。私なんかここに――」

「真紀子!」

 叫ぶように声をあげて真紀子の言葉を遮り、千聖はまたベッドに座った。

 これ以上、未央を怒らせるような過去の出来事を持ち出されるのは拙い。

 それは十分わかっているのだが、何をどうすれば良いか考えたくても頭が働かない。

 僅かに口角を引き上げ、千聖は言葉を発した。

「頼むから、二人とも静かにしてくれ……」

 両手で顔を覆って俯いた千聖を目にして、瞳が真紀子を睨む。

「そうですわ。重倉さん、少し声が大き過ぎましてよ。千聖さん大丈夫ですか?もう休んでくださいな」

「あなたねぇ!千聖は『二人とも』って言ったのよ。だいたいあとからしゃしゃり出て来て――」

 両手を腰に当てた真紀子が、不満も露に瞳を睨み返す。

 瞳は軽く眉を上げ、即座に口を開いた。

「あら、愛は時間じゃありませんわ。もっとロマンチックなものです。ね、千聖さん」

 千聖は黙ったままベッドに入り、布団を頭から掛けた。

(ったく……なんで風邪なんかひいたんだ?キャミソール一枚だった未央はピンピンしてるのに。おかげでクリスマスデートは駄目になるし……これ以上ないシチュエーションだったはずが、最悪だよ―― 最悪)



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