DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
「それに今日の響、ハキハキしてて男らしい。―― 私その方がいいな」
「未央……」
予想外の言葉に、響は苦笑した。
確かに、いつも未央に対しては嫌われたくないという思いが先走り、遠慮していたかも知れなかった。
いや、確かに遠慮していた。
未央はそれに気付いていたのだ。
「だってさ、響いつも私に遠慮してるみたいで……。他の人にはズバズバ言うのに、私には全然そんなことなくて。もっと本音でぶつかって欲しいなってちょっと淋しかったんだ。まるで―― パパと話しているみたいで」
未央はそう告げて、少し淋しそうに微笑んだ。
「響は知ってたよね。私のパパが本当のパパじゃないこと」
響が黙って肯く。
「画家だった私の本当のパパの子供の頃からの親友で、大学時代からママのこと知ってて、その頃からママのこと好きで――。パパが死んで、小さな私を抱えてママが困っているときいつも助けてくれた人。それが今のパパ。ママと結婚して、私のパパになってくれた優しくて暖かい人」
けれど、いつも何処か遠慮しているようだと未央は感じていた。
本当の娘だったらもっと叱ったかも知れない事でも、叱らないようにしているみたいだと。
言いたい事があっても、我慢しているみたいだと。
優しさが好きだったけど、同時に少しだけ、ほんの少しだけ淋しさも感じてた。
本音でぶつかって欲しいと。
「だけどよく考えたら、それってパパも思っていたかも知れないのよね。きっと私も何処かでパパに遠慮して、本気で心をぶつけていなかったと思うから。だから今日、響が叱ってくれたこと、嬉しかった」
足をブラブラさせていた未央は、後ろに手をついてフェンスの傍に植わっている桜の木に目をやった。
「そうだ。もしかしたら、私が千聖と一緒にいたいと思ったのもそれが理由かも知れない。だってね、千聖ったらすごいのよ。思ったことズバズバ言っちゃって、逆にもうちょっと遠慮したら?って言いたいくらい。『うるさいんだよ!』とか『あんたには関係ない』とか『俺に構うな!』とか」
「えっ?」
響は思わず聞き返した。
「今、『俺に構うな』って言った?」
「ええ、言ったわ。それがどうかした?」
未央はキョトンとして響を見た。