DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
「どうかって―― 千聖って女の人じゃないの?」
「男よ。向坂千聖っていうの。二十二歳のオジ―― 違ったお兄さん」
「えぇええっっ!」
「何?」
未央は突然大声を出した響を、不思議そうに見つめた。
「あ、でも家族の人がいるんだろ?その人の」
「いないよ。千聖も一人暮らしだもの」
未央の答えにゴクリと唾を飲む。
「未央。おまえまさか――」
「何?」
「まさか―― その……そいつと……」
「え?何?」
「何ってその……」
「――?」
言いたい事を全く意に介さない未央に痺れを切らし、響は未央に歩み寄って隣に座りグッと拳を握り締めた。
「だからっ!そいつは男でおまえは女で、おまけに家には誰もいなくて二人っきりで、二日以上も同じ部屋にいて――」
真っ赤になって機関銃のように喋りだした響をじっと見つめて未央はフッと笑うと、手でその口を押さえた。
「分かったよ。響の言いたいこと」
「未央……」
「ごめん心配掛けて。でもね、安心して。何にも無かったから。それにね、ホントの事言うと友達にさえなってないんだ。口は利いてくれるけど、話し掛けるのは私ばっかり。自分の事は何も話してくれないの。っていうより、千聖はね、私に出て行って欲しいのよ」
口を開けば『出て行け』を繰り返す千聖が頭に浮かび、未央は両手の指を弄びながら打ち明けた。
「だったら、何故そんな奴の所にいたんだよ。どうして俺の所に来なかったんだ」
「言ったでしょ。外に出るのも恐かったって。それにね、何故だか千聖を一人にしちゃいけないような気がしたの。私が千聖に出会ったのはただの偶然じゃなくて、何か理由があるんだ。このまま別れてしまっちゃいけないんだってそんな感じが――」
「好きなのか?」
突拍子も無い問い掛けに、未央は不思議そうに響を見た。
「え……?」
「そいつのこと好きになったのか?だからそいつの傍にいるのか?ろくに口利いてもくれない奴の傍に!」
未央は響から目を逸らすと、膝に置いた手を見つめた。