DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
「分からない。でも嫌いじゃないと思う。好きになるかも知れない、でもきっと嫌いにはならない。今は―― そんな感じ」

「俺のことは?」

「―― ごめん。分からない。だって響は友だちだし――」

「未央!俺はおまえがそいつの所に行くのは反対だ。絶対に反対だ!だって!」

 響は言葉を止めると、突然未央を抱きすくめた。

「響……」

「未央、俺はおまえが好きだ。おまえに好かれたい。おまえを抱き締めたい。おまえにキスしたい」

 響の言葉の向こうで、午後の授業の予鈴が鳴っている。

 あと五分で授業が始まる。

「おまえに―― キスしたい……」

 響は囁くように呟き、腕を少し緩めて静かに顔を近付けた。

 心臓が今にも口から飛び出しそうなほど踊っている。

 未央が目の前にいる。

 唇がそこにある。

 あと数センチ動けば――

 しかし響は未央を抱き締めていた腕を解くと、ふいに立ち上がって座っていたコンクリートの台から飛び降りた。

 それから大きく息を吐いて、クルリと振り向いた。

「そいつと、な~んて事になったらどうするんだ?今みたいにボケッとしてたら好きなようにやられちゃうぜ」

「響――」

「でも、ま、しょうがないか。おまえがどうしても行くって言うなら、俺には止める権利ないもんな」

 小さく肩を竦め、少し癖のある髪を掻き上げる。

「未央。今日、荷物運んでやるよ。だからそいつの所に案内しろ」

「響、私――」

「何だよ暗い顔して。別に喧嘩売りに行くわけじゃないよ。ちょっと顔見に行くだけだから。だから笑えよ、いつもみたいに」

 響がそう告げた途端、急に体育館のドアが中から開いた。

 五時間目の体育の授業が始まったのだ。

「こら!おまえたちこんな所で何してる。もう授業始まってるだろう!」

「やっべえ!行くぞ、未央!」

 体育の教師に怒鳴られて、響は校舎に向かって走り出した。

「スミマセン!」

未央はペコリと頭を下げると、急いで響のあとに続いた。


…☆…
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