DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
廊下の方から足音が近付いて来る。
軋んだ音を立ててドア開き、二人の人物が中へ入って来た。
直ぐにドアを閉め、明かりをつける。
飾り棚の前に開いた地下室へ続く穴を目にすると、二人は顔を見合わせてニヤリと笑った。
「どうだ?掛かっただろう?米村」
「でもまだ奴かどうか分からない。地下室へ行って確かめてみないと」
「クックックッ……」
背の高い男が笑いを噛み殺す。
そうしながら、窓の所に挟み込まれた金属片をチラリと見て言葉を続けた。
「大丈夫、間違いなく怪盗コメット―― 奴だよ」
「だったら、これが偽物と取り替えられたりしていないか調べなくては」
「相変わらず疑い深いな。こんなに重たい物の下にある物を、罠が作動するまでの一瞬の間にどうやって摩り替えるって言うんだ?」
「悪かったな。でも相手はコメットだ。絶対無いとは言えないじゃないか」
米村の言葉に、背の高い男は呆れたとでも言いたそうに肩を竦めた。
「だから私はいくら奴を捉えるためとは言え、石を囮にするなんていうこんなやり方は本当は嫌だったんだ。心配で心配で毎晩眠れなかったよ。このあいだは変な泥棒に入られるし」
棚の前の空間に、ソファーの下から引き摺り出した幅三十センチ程の板を米村が渡す。
もう一人の男はその作業を見ながら答えた。
「書類だけ持って行ったっていうあれか?」
「ああ、このガラスの箱に手を触れたことは間違いないのだが、結局ほんの少しずらしただけで諦めてるんだよ」
「最近出没している回収屋だろう?その書類だけが目当てだったんだ。回収屋は標的以外は絶対に手をつけない。気にする事はないよ」
不安げな米村に答えながら、男は真っ暗な穴の中を覗き込んだ。
「8メートルか。これだけあれば足の一本も折れるさ。たとえコメットでも逃がすことはない」
事も無げに言葉を吐いた男の横から同じように穴を覗き、米村は眉を顰めた。