DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
「まさか死んだりしていないだろうな……。私は人殺しなんて――」

「今更何を言ってるんだ。人殺しならとっくにやっているだろう?」

 米村の言葉を遮り、男が皮肉っぽく笑う。

「あの宝石商の夫婦を殺して【影】を奪うという計画が持ち上がったとき、あんただって賛成をしたじゃないか」

「私は殺す事には反対した!」

「けど、【影】を奪うことには賛成した。 だからこいつがここにある」

 男はガラスの箱にしっかりと護られた石に目をやった。

「あの時、宝石商はいくら金を積んでも石は売らないと言い張った。おそらくあいつはこの石に隠された秘密に気付いていたのだろう。だからあの宝石商から【影】を手に入れるにはあれしか方法がなかったのさ」

「神部……」

 神部と呼ばれた背の高い男が続ける。

「影を持っていることが、あの計画に参加したという印。共犯だという証だ。あんたも私もそして他の五人も運命共同体―― 地獄の底まで一緒だということだ」

 神部の鋭い視線に、米村はゴクリと唾を飲んだ。

 ハンカチをポケットから取り出し、汗を拭きながら話題を変える。

「し、しかしコメットはいったいどんな奴なんだろうな?【影】を狙うなんて石の秘密に気付いているんだろうか」

「さあな。【影】だけを狙っているわけじゃないし……。それは本人に訊いてみれば分かることだよ。そのために警察を使わずにいたんだから」

「そうだな……。とにかく地下へ行く前に一度石を調べたい。あんたもちょっと手伝ってくれ。一人じゃ持ち上がらないんだ」

 米村は汗を拭ったハンカチをしまうと、先程渡した板の上に立ちガラスの箱を指さした。

「分かった」

 頷いた神部が米村の横へ移動して、箱に手を添える。

 かけ声を掛け、二人で同時に持ち上げすぐ横に置いた。

 途端に、箱に触れた何かがコロコロと転がった。

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