DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
正面玄関から中に入る。
管理人室の前を通ると、待ち構えていたように山岸が顔を覗かせた。
「お帰りなさい」
「あ、只今帰りました」
小さな覗き窓へ顔を近づけ、山岸はにこやかに微笑んだ。
「御主人、ついさっき帰ってこられたよ」
「え――?あ、はい?」
「以前はいつも遅かったのに、やっぱり奥さんが一緒だと違うよね」
それから未央の後ろにいた響に目をやる。
「あれ?そちらは?」
「ああ、彼は――」
言葉を発しかけた未央を遮って響が答える。
「未央の―― こいつの恋人です」
「えっ?――」
山岸は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑い出した。
「ハッハッハッハッ……面白い子だね。弟さんだろ?ま、とにかく―― 御主人待ってるよ、早く帰ってあげなさい」
「はい、じゃあ失礼します」
未央はまだ何か言いたそうな響の腕を引っ張ると、エレベーターのボタンを押した。
「なんだよあの親父。おまえのこと『奥さん』って。どう言う事なんだよ。おまけに俺が弟?全くふざけんなって言うの」
「分かんないけど――」
チンと音がして、やって来たエレベーターに乗り込む。
「もしかしたら、それが千聖が怒ってた原因かも。でもなんであのオジサンそんな間違いしちゃったのかな?」
「ったく―― 勘違いにも程があるぜ」
響は荷物を床へ置き、ムスッとして胸の前で腕を組んだ。
五階で降りる。
「ねえ響、私考えたんだけど」
踊り場に出ると、未央が突然言いだした。
「千聖、響とだったら話しするんじゃないかな?」
「え?」
未央の言う事はいつも唐突だ。
けれど今日は言いたい事は直ぐに分かった。
千聖が未央とは話をしないから、代わりに―― と言うことだろうと理解できた。
「隣同士だったんでしょ?だったら前にも話した事あるんじゃないの?」
「でも、五年も前の事だぜ。覚えてないよ。それにその頃俺は中一で、あっちは高校生だったんだ。話しなんて――」
そこまで答えて、響は見覚えのあるドアの並ぶ通路へ視線を逸らした。
本当は覚えていた。
あの日の事は今でもハッキリと――