DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
MISSION 6 ― 未央の誤算 ―
「こんにちは」
入り口で胸に付けたパスを見せて中に入る。
ここは、この辺りで一番大きな結婚式場を持つベイシティホテル。
そして今日はウエディングドレスのコンクール会場でもある。
未央はコンクールの当日、雑用の臨時アルバイトとして潜り込む事にしたのだ。
黒髪のウイッグを被り、眼鏡を掛け口元に黒子を付け、未央はまんまと見るからに真面目そうな『斉藤信子』という架空の人物になりすました。
もちろん、身元を証明する住所や電話番号も架空の物だ。
これなら建物の中をうろついていても、誰にも怪しまれない。
電話で詳しい仕事内容を尋ねた時コンクールのドレスの移動と言っていたから、最低一度は確実にドレスに近付ける。
我ながら良い考えだと思え、未央は気分が乗っていた。
更衣室で雑用係のユニホームに着替え、集合場所に向かうとさっそく説明が始まった。
「アルバイトの方はこれで全員ですね?では、今日の段取りを説明します」
「はい!」
「元気があっていいわね」
一人だけ返事をして肩を竦めた未央に、主任と呼ばれている女性が微笑んだ。
「私は主任の飯田です。いいですか、皆さんの仕事は今日ここで行われるコンクールのお手伝い。そして別の会場で開かれる披露宴のお手伝いです。仕事の種類は色々です。披露宴の後片付けや、ちょっとした掃除などもあります。或はお客様から何か承るかもしれません。その都度あちこち移動しなければなりませんから、建物の中の何処に何があるかだいたい把握しておくようにしてください。いいですね?」
「はい!」
また、未央だけが返事をした。
(あちゃ……また目立っちゃった。何でみんな返事しないのよ)
思わずうつむいて舌をペロリと出す。
飯田は微笑んで未央を見つめた。