DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
「今、警察を呼んでるんだけど、その前に訊いておこうと思って。悪いけど上に来てくれる?」

「はい、分かりました。あの――」

「なあに?」

「私、これ頼まれてるんです。だから届けた後でいいですか?」

 未央は出来るだけ平静を装い、手にしていたクロスを少し持ち上げて飯田に見せた。

「いいわよ。でも、なるべく急いでね」

 微笑んだ飯田に頭を下げ、背中を向ける。

(マズイわ。どうしよう……。早くドレスをどこかへ隠さなくちゃ。でも何処へ?)

 歩き出した未央の頭の中は、その事でいっぱいになっていた。





 四階には披露宴が行われる大きな部屋の他に、挙式を待つ花嫁の控え室もあった。

 クリスタルの間へはその前を通る。

 未央がちょうどそこを通り掛かったとき、ドアがバタンと開いて五歳くらいの少年が二人、すぐ脇の部屋から飛び出して来た。

「あっ!」

 思わず避ける。

「達也、考ちゃん!静かにしてなさい」

「だって達ちゃんが風船くれないんだもん!達ちゃん僕にもちょうだい」

「あげないよぉ。欲しかったら取りに来ればいいじゃん!」

 少年達は、後を追ってきた母親らしき人の注意も聞かず廊下を走り回る。

 おそらく花嫁の親族なのだろう。

 花嫁を囲んで「綺麗ね」「おめでとう」などと大人達が話している間に退屈になって来た―― というところだろうか。

「やめなさい!騒いで良い所じゃないでしょう」

 それは、もう一度母親が声を上げた途端だった。

「わっ――!」

 達也と呼ばれていた少年が、何かにつまづきよろめく。

 思わず掴まろうとして手を触れた花の飾られた高さ1メートル30センチ程の大理石の台が、グラリと揺れた。

「きゃぁああ!達也!」

 母親の悲鳴が辺りに響く。

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