DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
 それがもし、少年の上に倒れたら――

 かなりの重さのある物だけに、結果は直ぐに想像できた。

 しかし、あまりにも咄嗟の出来事に、直ぐ近くに立っていた若い男性も何する術もなくただ叫ぶしかなかった。

「達也君!」

 大理石の柱がスロービデオのようにゆっくりと傾く。

「危ない!」

 次の瞬間、未央はまるでバレーボールのフライングレシーブのように空中に身を投げ出した。

 今まさに倒れようとしている柱の下にいた少年を抱え込んで床を転がる。

 直後にドスンと鈍い音を立てて、大理石の柱は真っ赤な絨毯に横になった。

 先程までの喧騒とは打って変わった静けさの中、未央は床に座り腕の中の少年の顔を覗き込んだ。

「大丈夫?怪我しなかった?」

「う……うわぁあああん!」

 未央の声にハッと我に返った少年は、声を上げて泣き出した。

「ああぁぁああん――」

「もう大丈夫よ。だから泣かなくていいわ」

 呆然と立っていた男性は、一見大人しそうな雑用係の少女の行動力に目を見張った。

「す……スゲエ反射神経。人は見かけに寄らないってホントなんだ」

「達也!―― ありがとうございます。本当にありがとうございます」

 真っ青になっていた母親は、駆け寄ってきて未央の手から少年を受け取ると何度も頭を下げた。

 自然に周囲からは拍手が起こった。

「いいえ、坊やに怪我が無くて良かったです」

 未央は少し照れながら微笑んで、立ち上がろうとした。

 しかし――

「痛っ……」

 途端に右足首に激痛が走り、思わず未央はしゃがみ込んだ。

 床を踏み切ったとき捻ったのだろう。

 おそらく、火傷の痕が痛くて無意識に左を庇ったのだ。

「大丈夫ですか?足、痛いんじゃ――」

 少年の母親が心配そうに覗き込んでいる。

 未央は唇を噛むと、サッと立ち上がった。

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