DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
MISSION 7 ― ウエディングドレスを消せ ―

「何だね?君は」

「僕は関東日報の記者でこういう者です。今日はコンクールの取材で伺ったんですが……」

 男は警備員に歩み寄りながらポケットをゴソゴソと掻き回し、突っ込んであった取材許可証を見せた。

「そうですか。じつは、コンクールにエントリーされているウエディングドレスが盗まれたんですよ」

「ドレスがですか?」

「ええ、あなたなら御存じでしょう。最近よく出没している回収屋って奴です」

「ほぅ……回収屋ねぇ。それを追ってってわけですか。だったら、無駄ですよ。ここへは誰も来ませんでしたから」

 許可証をポケットにしまいながら男は答えた。

「それは確かですか?」

 念を押すように問い掛けた警備員に、男が肩を竦める。

「確かです。だって僕はさっきからずっとここに居たし。回収屋はドレスを持っているんでしょう?あんなにフワフワした嵩張る物を持っていれば、嫌でも目に付きますよ。しかも品物はウエディングドレスだ。色は白に決まってる。そんなモノ持ってるのに気付かないわけ無いじゃないですか」

 確かに自分達がここへ来た時、男は自動販売機の前に立っていた。

 その人間が誰も来ていないと言うのなら、間違いないはずだ。

「分かりました。おい、他を当たろう」

 警備員はもう一人と顔を見合わせると、「御協力ありがとうございました」と敬礼して去って行った。

「御疲れ様です」

 男は軽く頭を下げ、フッと笑って手にしていた缶コーヒーを飲み干した。

「何処の世界に盗んだ物を持ってフラフラしている奴が居るっていうんだ?ウエディングドレス、イコール白くて嵩張る物だという固定観念も無くさなきゃ、盗んだ奴は見付からないさ」

 それから辺りを窺って先程警備員が開けようとしていたドアの前に立つと、中へ入り後ろ手に鍵をかけた。

 数秒の後、男は口を開いた。

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