DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
「恐いとは思わないのか?危ない目に遭う事だってあるだろう?」

「ええ、あるわ。だけど恐いのはそんな事じゃない。恐いのは、回収屋をやっている事実が知られること。だってこんな事、隠し通せるはず無い。いつかきっと知られてしまう。もしそうなったら、私はいったい誰に助けてもらえばいいの?誰が私を助けてくれるの?そう思うと恐い。―― でも……やっぱりやめられない。あれを、パパとママの大切なあの絵を取り戻すまでは絶対に止めるわけにはいかないの。だって……やめたらきっと……一生後悔するから……」

 思わず泣きそうになって、未央は慌てて鼻を啜った。

 それに気付いたのか気付かなかったのか、千聖は暫く黙ってから口を開いた。

「それで、これからどうするつもりだ?」

「えっ?」

「ここからどうやって抜け出す?その足で。ウエディングドレスを持って」

「どうして足のこと――」

「あんたがここへ入る時から見ていたんだ。知っていて当然だろう?」

(見ていた?いったい何処で?だって廊下には誰もいなかった)

 未央がそう思った瞬間、千聖の声が響いた。

「いったい何処で見ていたんだろう?―― そう思ってるんだろう?」

 心を見透かされたような気がして、未央は思わず胸に手を当てた。

 また大きく息を吐いて答える。

「―― そうよ。何処で見てたの?」

「それは教えられない。企業秘密ってやつだ」

 千聖は新聞記者なのだ。

 だから記事を書く為の色んな方法を知っていて、駆使していて当然なのだ。

 未央はなんとなく千聖の言葉に納得した。

「ドレスを手に入れたら、騒ぎが起こらないうちに分からないように何かに詰め込んで、素知らぬ顔でここを出る。そのつもりだったんだろう?だが足を痛めた。そして―― 状況は変わった。最悪だ。今ここから出る者は全員荷物と身分を調べられる。どうする?」

 問われて未央は黙り込んだ。

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