DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
「おや?何か間違えてたか?」

「間違ってるわ!間違いだらけよ!当てずっぽうでいい加減なこと言わないで!」

「何処が間違ってるって?」

「何処って……甘えん坊なんかじゃないし、いつだってちゃんと考えて行動してるわ。背だって高い方だし、スタイルもいいし胸だって大きいんだから!」

「フッ……クックックッ……」

 笑い声に益々カッとなる。

「それに、優しくされたからって、それだけでついて行ったりしないもん!私、そんな女じゃないもん!そんな事しないもん!……そんな事……」

 思わず泣き声になると、千聖はやっと笑うのを止めた。

「……そうか。悪かったな。取り消すよ」

 一瞬室内が静かになる。

 代わって何処か遠くから近付いて来る足音が聞こえ始めた。

「タイムリミットか……」と千聖が呟く。

 未央は再び早まり始めた胸を押さえた。

「これから何をするか、もう決めたか?」

「ええ」

「それならすぐ行動に移せ。俺はあと十分間だけ部屋の前に居る」

「ねえ」

 クルリと向きを変え、ノブを掴んだ千聖を未央は呼び止めた。

「なんだ?」

「どうして私を逃がしてくれるの?」

「あんたが捕まらない方がネタに困らないから」

「えっ?」

 未央は耳を疑った。

 もしも百人の人が今の言葉を聞いたら、その百人の殆どが『なんて奴だ!』と思っただろう。

 勿論、未央だってそうだった。

「捕まったらそれで終わり。でも捕まらなかったら、また仕事をする。また記事が書ける」

「新聞記者のくせにずいぶん不道徳なのね」

「不道徳なんて、盗みをやっているあんたに言われたくないな。それに記者だからこうだなんていう固定観念は捨てた方がいい」

 思わず抗議した未央に、千聖はフッと笑った。

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