DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
 木村は益々自慢げで、今にも後ろにひっくり返りそうなほど胸を張った。

「たとえ今売り出し中のコメットとかいうコソ泥でも、盗み出すのは不可能ですよ」

 それから煙草を取り出して火をつけた。

 煙をフウッと吐く。

「ずいぶん挑発的だな」

 千聖は隣にいた顔見知りの記者に囁くと、フンと鼻で笑ってその煙を目で追った。

 記者が答える。

「余程自身があるんだろうよ。これで盗まれたら傑作なんだけどな」

「そんな不道徳なこと言っていいのか?」

「ここにいる殆どの奴が思ってるさ。関東日報さんだってそうだろ?」

 多分、その記者の言うとおりだ。

 コメットの記事が載った新聞や週刊誌は、売れ残った例が無い。

 だから、寧ろコメットが仕事をする事はマスコミ関係者にとっては大歓迎だった。

 二人はフッと笑った。

「さあさあ、そんな事より展示物の事を訊いてくださいよ。せっかく影山氏も見えている事ですから」

 社長の岡島がにこやかな笑顔を見せる。

 仕方なくという感じで、どこかの記者が手を上げた。

「どのような宝石類が展示されるのですか?目玉になる物は?」

「世界最大級と言われるダイヤモンド【クリスタルパレス】や、これも最大級のエメラルド【グリーンヘブン】。そして変わった物では石の中心に影のあるルビー【アップル】などが目玉になると思います」

「えっ?」

 思わずメモを取っていた手を止める。

(【アップル】?影を持つ七つの石の【アップル】か?)

 直ぐに手を上げて質問をする。

「【アップル】とはどのような物ですか?影があると言われてもピンと来ないんですが」

「そうでしょうね。では、それは持ち主であられる影山氏にお話しいただきましょう」

 促されて影山がマイクを握った。

(この男が影山―― 影山十三。【影】を持つ七人の中の一人なのか?)

 千聖は頭の中に刻み込むように、その見るからに裕福そうな男を見つめた。
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