Faylay~しあわせの魔法
「ええ、どうせ、俺は小さいですよ……」

一番のコンプレックスを遠慮なしにグサリと突き刺され、フェイレイはよろよろと床に倒れこむと、背中に哀愁を漂わせて拗ねた。

「英雄さん、ちょっと、起きなさい。貴方お強いのでしょう? でしたら、この扉を、ずどーんとやっちゃってください」

「……ずどーんと?」

「ええ。そうしたら、私を後ろからぎゅう~っとしてですね……ああ、それ、その剣を首の辺りにキラーンと輝かせてですね、『皇后を殺すぞー!』とか、叫んでください」

「え? それって……」

「陛下を人質にしろってことですかー!?」

ヴァンガードが信じられない、とでも言いたげに叫んだ。

「それが良いでしょう。ここにはアレクセイがいます。アレクセイはね、世界一の剣士なのです。セルティア国だけでチヤホヤされている貴方とは違うのですよ?」

「うぐぅ~!」

フェイレイ、またもや心臓を突き刺された。

先程、アレクセイの強さを見せ付けられたばかりだ。それだけに、余計に身に染みる。

「無駄な戦闘は避けるべきです。今は皇女を逃がすことに専念して?」

ね? と微笑んで首を傾げるローズマリーに、フェイレイは頭を掻きながら溜息をついた。

「……そうですね」

チラ、とリディルを振り返ると、彼女は少し不安そうな顔をしていた。

それにニッと笑いかけると、鞘から剣を引き抜いた。

ドンドンドン、と扉を叩く音が大きくなる。
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