Faylay~しあわせの魔法
全員がこのまま地面まで落ちる、と死を覚悟した瞬間、目の前に現れた黒い護衛艦を避けようと、急上昇する。

凄まじい加速Gに、座っている椅子の背に体を押し付けられた。

「困りましたね、これでは着陸することはおろか、この空域から離脱するのも難しいですわ」

少し顔を引きつらせながら、それでもローズマリーは気丈に、穏やかに言った。言った瞬間にまた急降下し、体中から力が抜けていってしまったが。

戦艦に向かう前から死を覚悟していたエインズワース夫妻でさえ、手を握り合って青ざめている。

「フェイ、機体を安定させて」

すぐ後ろに座っているリディルにそう言われ、フェイレイは操縦席をグルリと見渡してみるのだが、やはり何が何なのかさっぱり分からなかった。

「タウさん、どれいじってたっけなー」

と、しばらく考えてもても、さっぱり分からない。

「もう、分からないから勘で行く!」

「ちょ、勘弁してください!」

ヴァンガードの突っ込みを無視し、飛行艇はフラフラと、奇跡ともいえる偶然で砲撃の合間を何とかすり抜け、飛んでいく。

「大丈夫! 何とかなる!」

妙に自信満々に、フェイレイは言った。

ヴァンガードは確かに、戦艦に乗り込む前はフェイレイと一緒なら何でも出来そうな気がしていたが、飛行艇を操縦したことのない人間に全てを任せられるほど、楽観的には出来ていなかった。

「どこかに説明書はないんですか!」

泣きそうになりながら、ヴァンガードは辺りを見回す。

右に左に揺られ、時に回転する艇内で、そんな悠長なことをしている暇はなかったが。

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