Faylay~しあわせの魔法
「お前さんの実力は、こんなモンかよぉ!」

鉄骨に手をつきながら、剣を掲げて攻撃を防ぐ。

瞬間、クラーケンの足が鉄骨に直撃した。ビイイン、と細かく振動し、鉄骨についた手が滑った。

「落ちる!」

思わずヴァンガードが叫ぶ。

しかし、海に落ちかけた身体は、更に襲いかかってきたクラーケンの太い足に弾き飛ばされ、宙に舞った。

それが功を奏し、フェイレイは鉄骨の尖端になんとか着地した。腹に喰らったおかげでしばらく息は出来なかったが、そのまま更に襲い掛かるブラッディとやり合う。

「くっそ、なかなか、うまくいかないな」

状況に翻弄されて、まったく手が出せない。

だが、今はこれに耐えて、慣れるしかない。

足元の揺れ、船長の攻撃の癖、クラーケンの気配、すべてに。



「ああ、見ていられない」

海賊たちの歓声が沸きあがる夜の闇の中、ヴァンガードは両手に拳を握った。

オズウェルやビアンカも同じ気持ちらしく、今にも精霊を召喚して援護しそうな勢いで戦いを見守っている。

しかし、手を出すことは許されない。

これは正式な決闘である。海賊たちの誇りをかけた、神聖な儀式なのだ。


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