Faylay~しあわせの魔法
大きく傾く船。当然、フェイレイたちの足場も跳ね上がった。

疲弊しきっていた2人は、その対応に遅れた。同時に海に投げ出される。その身体に、クラーケンの太い足が巻きついた。

ザブン、と海の中へと引きずり込まれる2人。

「フェイレイさん!」

「船長!」

全員がそれぞれの名を呼び、舳先に走る。

「雷弾、用意!」

クラーケンを撃退しようと、海賊たちが動く。ヴァンガードも魔銃をホルスターから引き抜き、オズウェルたちも精霊を召喚しようとした。だが。

「お待ちなさい!」

ローズマリーの声が飛んだ。

「まだ勝負はついていないわ!」

「陛下、でも!」

「待ちなさい。……絶対に、上がってくるから」

ゴボゴボと音をたて、空と同じく菫色に染まりだした海の中を覗き込みながら、ローズマリーは言う。

「姉ちゃん、あんたの連れも死ぬぞ!」

海賊たちにそう声をかけられても、ローズマリーは動かない。ヴァンガードたちも、祈るように海を見つめる。


ゴボリ。

大きな気泡が海上に上がってきた。

次いで、ドドン、と低い音がして、水柱が2,3度、高く上がる。

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