Faylay~しあわせの魔法
そして。

目の前の海が、山のように盛り上がる。

船は再び大きく傾き、全員が後ろに転がった。

空を見上げるような恰好になった全員の目に、暁の空へと飛んでいく、この船の半分はあろうかという大きさのクラーケンが映った。

驚き、目を丸くしているうちに船首が下がり、ダダァンと大きな音と衝撃を与えながら、船は海に叩きつけられた。海水が滝のように甲板上に降り注ぐ。

「フェ、フェイレイさんは!」

流れ込んでくる海水に流されそうになりながら、ヴァンガードは再び海を覗き込む。

「上よ」

ローズマリーは笑顔で上を見上げていた。

そこには、ブラッディの襟首を掴みながら空から降ってくる、フェイレイの姿があった。

フェイレイは船長の身体を甲板に叩きつけると、自分も甲板の上に転がった。

「ハア、ゲホゲホッ」

胸を押さえて苦しそうに咳き込み、しかしすぐに立ち上がり、剣を構えた。

「まだ、ゲホッ、まだまだぁ!」

フェイレイの中では、まだ決闘は続行されていた。しかし、そんなフェイレイを見上げ、ブラッディは腹を抱えて笑い出した。

「あっはははははは!」

笑い声に、フェイレイはきょとんとする。

「あのまま俺を助けずにおけば、お前さんの勝ちだったさ。……勝負はついてる。さあ、一思いにやっちまいな」

胡坐をかき、ブラッディは背筋を伸ばした。

首を斬られる覚悟だ。

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