Faylay~しあわせの魔法
光の差し込まない闇の中で、玉座に座るカインはゆっくりと瞼を押し上げた。
肘掛に置いていた手をゆっくりと持ち上げ、掌を目の前に翳す。掌は、赤く爛れていた。
「今一歩だったものを……」
忌々しげに爛れた掌を握る。
そこに、扉をノックして入ってくる者があった。
「失礼いたします、皇帝陛下」
落ち着いた声を響かせて入ってきたのは、星府軍元帥、そして皇家に仕える騎士アレクセイ。
アレクセイは部屋中に充満する血生臭い匂いと、転がるいくつもの肢体に一瞬だけ顔を顰めた後、玉座の階下で足を止め、頭を下げた。
「陛下、申し訳ございません。セルティアを落とせませんでした」
深々と頭を下げるアレクセイを、カインは不機嫌そうに見つめる。
「リディアーナは」
セルティア陥落の報告よりも、カインの興味はそちらにあった。
「皇女殿下、並びに皇后陛下は、アライエル近海にて行方不明です」
「そのようだな」
カインもまた、そこで気配を追えなくなった。あの、“光”のせいで、せっかくリディルにつけたしるしが消されてしまった。
「あの男……」
「……あの男?」
「お前を介して一瞬だけ見た、赤い髪の男」
「彼が、何か?」