Faylay~しあわせの魔法
「目障りだ」

「……はい」

それは『殺せ』と言われているのだと、アレクセイは軽く頭を下げた。一瞬だけ自分の首に巻かれている包帯に意識を持っていく。

彼は……まだ、強くなる。

剣士としての純粋なる興味から、アレクセイは胸を高鳴らせた。

その想いを隠しつつ、顔を上げカインの右手に視線をやる。

「それは、いかがなさいました?」

「リディアーナに仕置きされてしまった」

クッ、と笑うその姿は、どこか楽しげにも見える。

「皇女殿下に?」

アレクセイは眉を顰めたものの、一旦部屋を出て救急箱を手に戻ってきた。そして玉座まで歩み寄り、カインの手を取る。

「やめろ」

「いいえ、きちんと治していただきます。大事な『皇帝陛下』の御身なのですから」

真っ直ぐに紫暗の瞳を見つめそう言うアレクセイを、カインは可笑しそうに見つめる。

「お前も馬鹿な人間だな。私が『カイン』ではないと、気付いておろうに」

「ええ、もちろんです。ですが」

包帯を巻き終え、パタンと箱を閉じてから、アレクセイはまたカインを見つめた。

「私は、カイン様に生涯忠誠を誓った身です。貴方が『カイン様』である限り、私は貴方に従い、命をかけてお護りする。それだけです」

「ふん、見上げた忠誠心だ」

カインは鼻で笑うと、包帯の巻かれた手でアレクセイを振り払い、玉座に身を沈めた。

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