Faylay~しあわせの魔法
「……あ!」

そこでようやく昨日のリディルの状態を思い出す。

あの痣はどうなったのだろう。ちゃんと消えたのだろうか。

思ったら、即行動。

フェイレイはリディルのワンピースをサッと眺め、下から捲り上げるのは躊躇われたので、胸元のボタンを外し、がばっと広げた。

上半身に広がっていた黒い痣はどこにもなく、跡形もなく綺麗に消えていた。

ローズマリーの話では、ウィルダスの女王の受けた傷が鳩尾に残っていたそうだが、それもない。

ただ雪のように白く美しい肌だけが見え、ほっと胸を撫で下ろす。

「良かった」

そう呟いて衣服を元に戻そうとしたとき、臍の横に皮膚が引きつった、古い傷跡を見つけた。

それはフェイレイが川から助けたときについていた傷で、随分深い刺傷だったと聞いた。

今はもう微かに残るだけの傷跡だけれど、白い肌に残るそれはとても痛々しく、眉を顰めながら、そっと指先で撫でた。

この傷を受けたときのことを、リディルは覚えていないだろう。

けれど彼女が幼い頃、悪夢にうなされていたことを考えると、心に受けた傷は決して消えはしないのだろう。

家の外の大木の下で泣いているリディルを見つけてから、怖い夢を見ないようにと一緒に眠っていたのだが、ギルドに入ってからは同じベッドで眠ることはなくなった。

今はもう、一人でも大丈夫なのだろうか。

リディルは自分から、辛いとか苦しいとか、そういうことは言わない。

もしかしたら、今も。

そう思ったら切なくて、愛おしむように傷跡に口付けた。

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