Faylay~しあわせの魔法
ただ一人、その手形をつけたリディルだけは、フェイレイに視線を向けることなく、黙々と手にしたパンを小さくちぎって食べていた。

焼きたてで香ばしい、おいしいパンであったが、残念ながらその味を堪能している余裕はなかった。

事情はローズマリーから聞いたので、別に怒っているわけではなかった。

あのときも、ただ驚いただけだった。

あまりにも驚いてしまったので、思わずアリア仕込みの平手打ちを、手加減なしで力いっぱいやってしまっただけで。

だから、怒っているわけではない。

ただ。

みんなに攻め立てられるフェイレイを憐れに思いつつも、色々見られたのだろうかと思うと、助けを求めるような彼の視線から、逃げるようにそっぽを向いてしまう。

怒ってはいない。

ただ、恥ずかしかった。



リディルにそっぽを向かれ、ダアーと涙を流すフェイレイのもとに、ブラッディがやってくる。

「丸一日寝ただけあって、元気になったみたいだな……。何泣いてんだ、『英雄』さんがよぉ」

バシッと背中を叩かれ、フェイレイは驚きながら振り返った。

「全部話しましたの」

ナプキンで口を押さえながら、ローズマリーが言った。

「この方、信用出来ますわ」

フェイレイの視線にブラッディはニッと笑い、隣の椅子に腰掛けた。

「さあ~て、フェイレイやリディアーナ様が起きたことだし、俺の知っている全てを話してやっか」

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