Faylay~しあわせの魔法
この皇宮で育ったわけではないからか。皇宮や軍のリディアーナに対しての見解は軽いものだった。

宰相がこのような企てをしたのも、彼女の存在があったからだとも言われた。

影では亡き皇帝陛下への不満の声も上がったほどだ。しかしそれを表立って言える者はなく、その分、リディアーナへ矛先が向いた。


「あの子には、何の罪もないというのに……」

カインの呟きは、誰にも聞いてもらえなかった。

クライヴとサイラス、この2人以外は。

「頼む、クライヴ、サイラス。リディアーナとシャンテル様を助けてくれ。私の立場からはどうしてやることも出来ない。どうかあの2人を、安全な場所へ逃がしてくれ」

拳を振るわせながらそう懇願するカインに、クライヴとサイラスは深く頷いた。

「任せとけ、カイン様。あの2人を、絶対に殺させやしないからな」

サイラスとクライヴはそう誓い、反星府軍へと潜り込んだ。

カインの護衛官として顔を知られているため、なかなか中枢に近づくことは出来なかったのだが、終戦間近になって周りが慌しくなり、やっと隙をみてリディアーナに近づくことが出来た。

その頃にはもう、彼女は表情を失っていた。

穏やかな田園風景の中にある、温かな家から連れ去られて2ヶ月。

恐ろしい企ての中に無理やり連れ込まれ、鬼のような形相の大人たちに囲まれた結果だろう。

そして何より彼女の心を蝕んだのは、母親であるシャンテルの拷問だった。

リディアーナを大人しく陣中に留めるため、シャンテルを目の前で痛めつけた。そうして逃げることなど考えなくなるように仕向けた。

おかげでシャンテルはもう、歩くことさえ出来ない状態で放置されていた。

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