Faylay~しあわせの魔法
そこに海賊になったことを後悔している様子はなかった。

それだけは、彼にとっても、話を聞いた者たちにとっても救いだった。

「しかし……そのとき、何が起きたんだろう。父はどうやって皇女殿下をセルティアまで。……確かに、私たちはセルティアに逃げようとしていた。けれど、一体、どうやって……」

ブラッディの話では、クライヴは皇都ですでに虫の息だった。

とても船で3日以上かかるセルティアまで辿り着けそうになかった。

「ま、そこは最大の謎なんだけど。俺は、あのときジイさんが精霊たちの力を借りて、何かやったんだと、そう思ってたんだが……」

ブラッディはリディルに目をやった。

「もしかすると、リディアーナ様の力だったんじゃねぇかと、昨日……思ったよ」

リディルはゆっくりと視線を上げ、ブラッディを見た。

「あの光……。10年前に見た光と、同じような気がするんだ。どうですか、リディアーナ様」

それに対し、リディルは僅かに首を振っただけだ。

「……記憶をなくされたんでしたね。無理もねぇ」

ブラッディは立ち上がると、リディルの隣に跪いた。

「俺は貴女を護りきれなかった。だけど、こうして生きていてくれたことは本当に嬉しいですよ。今度こそ、貴女の力になります。リディアーナ皇女殿下」

「……私、は」

リディルは戸惑いの色を浮かべる。

「いいんです、思い出していただかなくても。俺が勝手に、護らせていただきます」

そうすることがシャンテルやクライヴの弔いになる。ブラッディはそう考えていた。

< 268 / 798 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop