Faylay~しあわせの魔法
「どうしてフェイが泣くの」

今にも泣きそうなフェイレイに小首を傾げてみせると、フェイレイは更に情けない顔になった。

「ごめん、俺じゃなくてリディルなのに」

「……私は平気だよ」

「平気じゃないだろ」

「ホントに、平気」

リディルは微かに笑みを浮かべる。

「フェイがいるから大丈夫だって……前にも、言っ」

少し伏目がちにそう言うリディルを、フェイレイは反射的に引き寄せて抱きしめたた。そのためリディルは最後まで言葉を紡げなかった。

ザザ、と微かに聞こえる、船が波を掻き分けて海の上を進んでいく音が、静かに2人を包み込む。

しばらく経って、リディルが肩にかけていた毛布がパサリと足元に落ちる音で、フェイレイはハッと我に返った。

「あ、いや、ごめん!」

パッと手を離し、一歩後退る。

「あんまりリディルがかわいいこと言うから思わず……って、いやいや、待って、そうじゃなくて!」

左手をリディルに突き出して『違う』と横に振る。

その後で両手で顔を覆い、船縁にゴツ、と頭突きした。

「……ごめん。今朝も、ごめん。俺、ちょっと自重する……」

そんな彼を、リディルはジッと見つめる。

──フェイレイはいつもそうだが。

無意識の行動から我に返ったときに、物凄い勢いで離れていく。今朝、平手打ちでぶっ飛ばしたのは例外としても、だ。

そんな風に急に離れていかれると、少し寂しかったりする。

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