Faylay~しあわせの魔法
「やっぱりな」

ブラッディは軽く溜息をついた。

「張り付く壁は冷たい氷の上、猛烈な海風でクライマーの体温はあっという間に下がる。長時間晒されることは死に直結する。……普通はこの時期、あの島に行こうとするヤツなんかいねぇよ。飛空艇だって、乱気流に巻き込まれて終わりだからな」

「……他にルートはありませんの?」

ローズマリーの質問に、ブラッディは首を振った。

「そんなとこがあったら、みんなそこを通るさ。大体、フェイレイの父さんが内陸に行ったってだけで驚きなんだ。よっぽど鍛えてんだろうな」

「それはもちろん」

フェイレイは頷いた。

自分なんかより、よほど体力のある父だ。アイスクライミングも難なくやるだろう。

「だから、誰か体力に自信のあるヤツが行って、フェイレイの父さんからIDをもらってくればいい、と俺は考えたんだが」

「なら、俺が行く」

真っ先にフェイレイが手を挙げる。

それを見て、リディルもそっと手を挙げた。

エインズワース夫妻はヴァンガードに視線をやる。息子がどんな決断をするかによって、彼らの行動も決まる。

ランスのところに留まるつもりなのであれば、何としてでも連れて行かなければならなかった。

ヴァンガードはしばらく悩んだ後、手を挙げた。

「行きます」

「ならば私たちも」

夫妻も手を挙げた。

「……では私も行かなければなりませんわね」

ローズマリーも手を挙げ、結局全員が行くことになった。

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