Faylay~しあわせの魔法
登ったときと同じ、2時間弱で壁を降りたパーティは、そこでいきなり魔族に襲われた。

白くて長い毛を持った熊のような魔族は、鋭い爪と牙で疲弊しきったフェイレイたちに襲い掛かってきたのだが……。

「うらぁっ!」

ローズマリーの怒りの鉄拳が顎に炸裂した。

「こちとら慣れない寒さと疲労でイライラしてんだよぉ! 何出てきてんだ、コラァ!!」

ゴキッ……

鈍い音がして魔族の顎が砕かれた。そして魔族はズズン、と硬い雪の上に倒れた。一瞬の出来事だった。

全員が呆気に取られていると、ローズマリーはくるりと振り返り、にっこりと微笑んだ。

「ああ、すっきりしましたわ。さ、参りましょうか! 寒くても魔族は出るようですものね。ここにとどまるのは危険ですわ」

「え、あ、そ、そうですね」

フェイレイが何とか返事をし、リディルとヴァンガードもコクリと素直に頷いた。

オズウェルとビアンカは、初めて見るローズマリーのあまりにも違いすぎる一面に、あんぐりと口を開け、固まったまましばらく動けなかった。

そんな2人の背中をローズマリーがグイグイ押して、歩きづらい雪道を歩いていく。

しばらく進んでいくと、不思議なことに吹雪がピタリと止んだ。

積もった雪のせいなのか、薄く雲のかかる空からハラハラと雪は降りてきているのに、わりと明るい雪原をパーティは歩いていた。

振り返ると、岩壁の方は吹雪いているらしく、曇って見える。

「島の周りだけ吹雪いてて、内陸は穏やかなんだ? 不思議~」

吹雪かなくなったせいか、空気も澄んできたようで、呼吸がだいぶ楽になったような気がする。
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