Faylay~しあわせの魔法
いきなり空に現れた巨大戦艦に、恐れをなす住民たちを家屋の中に避難させ、ランス一人だけが外に出た。
ゴウゴウと音を立てながら空に停留した戦艦からは、黒い小型飛行艇が下りてくる。
湖の畔に立ってそれを眺めていると、飛行艇は凍った湖の上に、滑るように着陸した。
しばらくして扉が開き、黒いコートを羽織った長身の男が氷の上に飛び降りた。静かにランスに向けられるのは、闇の中でも分かる漆黒の瞳。
「……ランス=グリフィノー、ですね」
「アレクセイ=ラゼスタ……か」
星府軍元帥自らが先陣を切って目の前に現れたことに、ランスは少なからず驚いていた。
「元帥自ら、このような辺境の地まで赴くとは」
「私は皇家にお仕えする騎士でありますから」
アレクセイはまったく表情を動かすことなく、淡々と答えた。
「貴方も皇女隠匿の罪に問われています。ですから、今、この場所で裁きを下します」
アレクセイは静かに腰の鞘から剣を引き抜いた。彼の身の丈ほどもある長剣だ。
ランスは向けられる切っ先を見つめ、静かに息を吐き出した。
「その剣で、何人の血が流れたのか。なんの罪もない人々を殺め、それでもまだ皇家に仕えるというのか」
「皇家に仇なす者、それこそが私の敵。私が討たねばならない相手です。貴方の奥様も」
アレクセイはコートのポケットから何かを取り出すと、ランスに放った。
小さく光るそれを受け取り、そっと掌を広げてみて──また、握った。
目を閉じ、握った拳を額に当てる。
小さく光るその銀の指輪は、アリアのものだった。