Faylay~しあわせの魔法
風に雪が舞う中、静かに黙祷を捧げているランスを、アレクセイも静かに見守る。

「失礼ですが、あまり動揺していらっしゃいませんね。ご存知でしたか」

アレクセイの言葉は丁寧だが、まったく感情がない。

「……覚悟はしていた。日に一度あるはずの通信が途絶えたから」

ランスはギュッと拳を握り締めた。

全て覚悟はしていた。カインにリディルの居場所が知れてから……いや、リディルを助け、フェイレイに託すことを決めてから、全て。

互いに何があっても、子供たちを護る。

その覚悟して、今まで生きてきた。

「そうか、君だったか。……敵わなかったはずだな」

ランスは口元に笑みを作ると、背中の剣を抜いた。彼の身の丈もある、重量のある大剣だ。

「敵討ちをさせてもらおう」

アレクセイはそれを見ても表情を変えることはない。静かに、剣の切っ先を目の前まで挙げた。

「出来ますか」

漆黒の瞳と、空色の瞳が静かな闘志を放ってぶつかり合う。

ただ対峙しているだけで、2人の間に吹く冷たい風がどんどん強くなっていき、白い霧が立ち込めていく。

それが渦を巻き始める頃、ようやく両者とも氷を蹴った。

剣がぶつかると、どう、と空気が振動し、2人の覇気の破片が四方八方に飛び散った。

ランスの全力で振り下ろした大剣を、長さはあるが大して重量はなさそうな細い剣で、しかも片手で受け止めるアレクセイ。しかも平然とした顔をしてそれをやってのけるものだから、ランスは思わず笑みを漏らした。

若くして星府軍元帥の座まで登りつめた男。

その力は本物だった。
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