Faylay~しあわせの魔法
皇都に戻ったアレクセイを待っていたのは、大層機嫌の悪そうなカインだった。
思い当たる節はあるが、アレクセイは務めて冷静に報告をする。
「皇女殿下、並びに赤髪の男、双方、取り逃がしました」
玉座の下でそう報告するアレクセイに、カインの片眉が釣り上がった。同時に、アレクセイに見えない重圧が圧し掛かる。
「何度取り逃がせば気が済むんだ」
静かだが、苛ついているとはっきり分かる声だ。
更に重圧がかかり、アレクセイは柔らかな絨毯の上に片膝をつく。
「ですが、赤髪の男の肉親は処罰いたしました。徐々にではありますが、ヤツの力を削いでおります。今しばらくお時間を」
「私は気が短いのだ」
カインが立ち上がると、更にずしりと頭上から圧し掛かり、とうとう頬を絨毯の上に擦り付けた。
「お前は“この男”の忠実な僕の上、使えそうだから生かしておいてやっているんだ。成果が上がらないのなら、今すぐ消えろ」
紫暗の瞳が赤く光る。
と、アレクセイは全身に針を突き刺されたような痛みに襲われた。
グッと歯を食いしばって、声だけは漏らすまいと必死に耐える。
絨毯の上に張り付くアレクセイを冷たい瞳で見下ろすカインは、サッと彼の頭に手を翳した。
途端に、カインの目が見開かれる。
「う、ぐあっ」
アレクセイの頭上にやっていた手を、紺色の髪の中に突っ込み、苦しそうに悶えながら後退する。