Faylay~しあわせの魔法
「ア、レク、セイ……」

憎々しげに顔を歪めながら、カインはアレクセイの名を呼ぶ。

「何故……アレクセイ」

ギリギリと歯軋りをしながら、憎しみの瞳を向けながら、しかしその声にアレクセイは顔を上げた。

「カイン様!!」

“本当の”主だ。

そう直感し、アレクセイはカインに駆け寄った。

「カイン様、しっかり。そのような輩に意識を乗っ取られてはいけません」

「アレク……」

グ、と歯を食いしばり、紺色の髪を掻き毟りながら、なんとかアレクセイに視線を向けようとするカイン。

「カイン様」

ふらつくカインに手を貸そうとすると、バシッと手を振り払われた。そして胸倉を掴まれると、壁に勢い良く叩きつけられる。

「アレク、私はもう、駄目だ。約束を、忘れたわけでは、あるまい」

頭を抱えて悶えながら、なんとか言葉を紡ぐ。

「ここから、出て行け。ローズを……」

「カイン様」

アレクセイは胸倉を掴まれながらも、厳しい口調だ。

「そのような約束、私は覚えておりません。私は決して、貴方のお傍を離れたりいたしません。私は貴方の騎士です。そのことを心置きください」

「アレク……!」

「私がいることで、まだ貴方が正気を保とうと努力なさっているのなら……まだ、大丈夫です。大丈夫ですから。ですから、最後まで諦めませんように。いいですね?」
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