Faylay~しあわせの魔法
カインはしばらく苦しみ続けた後、獣のような雄叫びを上げ、後ろに引っくり返った。

「ハア、ハア……この男……いつまで、私に抗うつもりだ……!」

しばらく悶え続けたカインは、そのまま動かなくなった。

万物の力を持っていそうな“この主”も、休む時間が必要なときがあるらしい。それだけカインの精神力に押されている証とも言えた。

「カイン様……苦しい想いをさせてしまい、申し訳ございません。ですが、もう少しですから……」

先ほどのカインは、声こそ“カイン”だったが、表情が別人のようだった。もう長くは持たない。“カイン”という人格は、いつ消えてもおかしくない状態だ。

その前に必ず、彼を取り戻す。




『アレクセイ』

1年ほど前、徐々に変わりつつあったカインはアレクセイに言った。

『私がローズを突き放した時こそ、私が“負けた”ときだ。そのときが来たら……ローズを連れ、安全な場所まで逃げて欲しい。ミルトゥワには安全な場所など、もうないかもしれない。宇宙へ逃げてくれ』

アレクセイはそれを拒否した。

先ほどのように、カインを励まし続けた。

このミルトゥワに生きる全人類のために。何より、彼を愛するローズマリーのために。何としてでも、“何者か”の支配を押さえつけて欲しい。

そう願い続けたが、そのときは来てしまった。


『皇后はもう必要ない』


セルティア襲撃時に、カインは完全にカインではなくなった。

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