Faylay~しあわせの魔法
人が多すぎてよく見えないが、たくさんの頭の向こうから、しわがれた女性の怒鳴り声が聞こえてきた。

「ワシは絶対にここを動かんぞ! 地震がきても雷がきても、ハゲ親父が来てもここを動かんぞー!」

ぴょんぴょんジャンプして人々の頭の向こうを見てみると、真っ黒なローブを着た小さな老女が、道のど真ん中で杖をついて仁王立ちしていた。

その横で、同じく黒いローブを羽織ったポニーテールの少女が、老婆の腕を掴んで懸命に引っ張っている。

「おばあちゃん、お願いだから歩道に行こうよ! こんなところにいたら馬車に轢かれちゃうからー!」

「いいや、ワシは動かん! 今日ここで運命の出会いをすると水晶玉に出たんじゃー!」

「おばあちゃんの占い当たらないじゃない! いいから、人の迷惑になるからー!」

「いやじゃ! 運命の人が現れるまで、絶対に動かんぞー!」

どんなに少女が引っ張っても頑として動こうとしない老婆に、見物人はどんどん増えていく。

「轢かれたらどうするんだろう」

フェイレイは少し心配になる。

「……乗合馬車の、来る時間」

リディルはターミナルで貰った運行表を見ていた。

「アライエル人はのんびりしてますから、時刻通りには来ないそうです」

横からヴァンガードが言う。

「でも、いつかは来るのでしょう? ……おばあさん、轢かれてしまいますわね」

ローズマリーは頬に手を当て、困りましたね、と眉尻を下げる。

そう言っている間に、緩やかな坂の上から4頭の馬に引かれた馬車がやってきてしまった。
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