Faylay~しあわせの魔法
「リディル?」

ぼうっと突っ立っているリディルの顔を覗き込むと、白い頬を透明な涙がつっと伝っていった。

「うわ、何、どうした?」

感情を表さない彼女は、泣くこともなかった。フェイレイがリディルの涙を見たのは、子供の頃、勇者になると約束をしたあの夜以来である。

「どした? 何かあった?」

声もあげず、ただ静かに泣く少女をどう扱ったらいいのか分からず、ただオロオロする。

「リディル?」

オロオロするフェイレイにまるで気づかない様子のリディルは、ずっと一点を見つめていた。

その視線を辿り、霧の向こうに見え隠れするゆっくりと回る水車を見つけると、フェイレイは涙の意味するものを理解する。

「……思い出したの?」

リディルはフェイレイの言葉には気づかず、ただ、ぱたぱたと涙を落とす。

何だか痛々しくて、落ちていく涙を指先で掬い上げる。そこでやっと、リディルはフェイレイに気づいた。

「……フェイ?」

「うん。大丈夫?」

「……何が?」

「泣いてるよ」

リディルはパチパチと瞬きをした。その度に涙が下に転がり落ちていく。

「……どうして、かな」

濡れた頬に手をやり、リディルはぼうっとしている。

思い出したわけではないらしい。けれど、目の前に広がる青々とした草原と、ゆっくりと回る水車小屋の風景は、確かに心の琴線に触れたのだ。

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