Faylay~しあわせの魔法
この辺りは強固な守りが敷かれ、魔族の侵入はないということだったが、セルティア王都にまで進入してきていた魔族のことを考えると油断は出来ず、心配なのでフェイレイも外に出た。

りぃ、りぃ、と小さな虫たちが静かに歌っている中を歩いていくと、簡易テントから少し離れた丘の上にヴァンガードが佇んでいた。

「ヴァン?」

声をかけると、ヴァンガードが振り返った。

「フェイレイさん」

「何してんだ?」

「ああ、あの……一応、警護を」

ヴァンガードが指差した緩やかな坂の下に、リディルが蹲っているのが見えた。

膝を抱えたまま、ジッとして動かない。

「たぶん……水車を見ているんだと思います。あまり近づくと邪魔かなと思いまして、少し離れていたのですが……」

「ああ、うん、そうかも」

フェイレイも頷く。

「懐かしいんだろうな」

たとえ思い出せなくとも。

大切な思い出がなくなることはないのだろう。

「ヴァン、ありがとな」

ヴァンガードの頭にポン、と手を置くと、彼は鼻白んでフェイレイを見上げた。

「僕は、僕の役目を果たしているだけです」

「……なんか、怒ってる?」

「いいえ別に。ただ……」

ヴァンガードは少しだけ言い淀んで、しかしきっぱりと言い放った。

「あまり貴方が頼りないと、その隙に入り込みますからね」
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