Faylay~しあわせの魔法
真っ直ぐな瞳でそう言われ、フェイレイは僅かに目を見開いた。

「え、と……どういう意味?」

「そのままの意味ですよ」

ふん、とヴァンガードは鼻を鳴らすと、フェイレイの背中を両手でどん、と押した。二、三歩前によろけて、丘を下る。ヴァンガードの方が視線が上になった。

「警備交代です。行ってください」

「え? でも」

「隙を作らないで下さいと言いましたよ」

鋭い瞳でフェイレイを見下ろした後、ヴァンガードは背を向けて、自分たちのテントに戻っていく。

それを頭を掻いて見送ると、丘を下ってリディルの元へ歩き出した。




りぃ、りぃ、と鳴く虫の音と、ゴトン、ゴトンと回る水車の音。

少し離れたところで膝を抱え、目を閉じて静かな夜闇の中に響くその音にジッと聞き入る。

優しい小川のせせらぎは、懐かしいところへ繋がっているような気がする。しかし、どうやっても辿り着けない。もう少しで手繰り寄せられそうなのに……。

もどかしさに胸が焦れる。

「おかあさん、か……」

吐息とともに呟くと、背後から草を踏みしめてやってくる足音が聞こえてきた。

「……フェイ」

振り返ると、月明かりを背にして、フェイレイが頭を掻きながら丘を下ってくるところだった。

フェイレイは無言のままリディルの隣まで来ると、すとんと草の上に座った。

< 386 / 798 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop