Faylay~しあわせの魔法
湿った草の中に手をつき、少し離れた所で静かに回る水車を眺める。

そのまままったく会話をすることもなく、ただ時間だけが過ぎていく。

少しだけ欠けた月が天辺から僅かに傾いて、やっとリディルはフェイレイの横顔を覗き見た。

そのままじいっと、穴が開くほど見つめていると、フェイレイは水車小屋から目を外し、リディルに顔を向けた。

「ん?」

「……喋らないの?」

こんなにも長い間黙っているフェイレイは初めてである。何だか心配になった。

「ああ、うん……水車の音、聞きたいかなと思って。俺も……ちょっと考え事してたし」

「考え事?」

「さっきヴァンに言われたんだけど……うーん、わかんね」

くしゃっと赤い髪に手を突っ込み、フェイレイは溜息をつく。それを聞いたリディルは、少しだけ慌てた。

「……なに、言われたの?」

「え? いや……わかんない」

「分からない?」

「そ。わかんないー!」

うーん、と伸びをして体を解すフェイレイ。その叫びを聞き、リディルはほっと胸を撫で下ろすのだった。

それからまた、フェイレイに視線だけを向ける。

「みんな、元気出たみたいだね」

「あ、ホント?」

「フェイのおかげだよ」

「そっかな」

ヘヘヘ、とフェイレイは笑った。
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