Faylay~しあわせの魔法
翌日、真白な朝霧がしっとりと草原を包む中、全員がテントから出てきた。

「東じゃぞー。お前たち、東に行くと良いことがあるぞー!」

最後の占いだ、と言って、ナミがこれからの道を指し示してくれた。

北の大陸をずっと東に向かうと、東海岸沿いに広がるアライエル王都、ヴァルトに辿り着く。奇しくも、最初の目的地へ行くように促されたのだ。

「お世話になりました」

ローズマリーが頭を下げると、3人もそれに倣って頭を下げた。

「ああ、気をつけてなぁ」

「お気をつけて」

ナミとハルカに手を振られ、それに手を振り返しながら、朝露に濡れる短い草の上を歩き始める。

「勇者の出身地だぞ。ワクワクするなー」

千年前に世界を救ったという勇者に思いを馳せ、そんなことを言いながら歩き始めたときだった。

「迷うな!」

背中に向かって、ナミの大声が放たれた。

振り返ると、ナミが一歩前に進んできた。ハルカが戸惑ったように、その背中を見守っている。

「迷うな、光の子よ。いかなるときも己を見失うな」

「……バアちゃん?」

確かにナミの声なのだが──どこか、雰囲気が違う。

「お前なら辿り着けると信じている。だから、私は──」

たゆたう真白な霧の中に低く響くナミの声は、どっしりとした重みを持って耳に届く。これは──ナミでは、ない。

「……誰、だ?」

静かに問うと、ナミの濁った瞳がキラリと輝いた。
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