Faylay~しあわせの魔法
「……陛下とですか」

「ローズです」

ローズマリーはニコリと笑う。

「いや、それは分かるけど」

皇都の皇后陛下とやり合うなど、言語道断という気がしたのだ。

「この数日で、リディルもヴァンくんも成長が見られますわ。でも、それを見守る私たちが成長を止めていたのではいけませんから」

「……ま、分かるけどさ」

フェイレイはポリポリと頭をかいた。

「剣を使っても、拳でも構いません。さあ、いらっしゃい」

「……いいのかなぁ」

フェイレイは迷いながらも、拳同士の戦いを選択する。拳でも十分殺傷能力はあるのだが、慣れ親しんでいる剣よりはだいぶ加減が出来る。

「剣でなくてよろしいのですか? まあいいですけれど。全力できてくださいね。手加減したら……」

ふ、と周りの空気が動いて、はっと気づいたときには、すでに目の前に赤い瞳があった。

「死ぬからな」

「冗談」

ざわりと肌が粟立つのを感じながら、後ろに飛んで距離を取ろうとする。しかしローズマリーの動きはそれを上回っていた。

掌を目の前に突き出され、視界を遮られた一瞬の隙に、腹に重い一撃を加えられる。

一切無駄のない力加減で見事に体内に衝撃を送られ、胃の腑が引っくり返りそうになった。

ぐ、と堪えて、容赦なく叩き込まれる次の一撃を、掌で止める。

「……容赦、ないね」

「手加減すれば死ぬと言っただろう」

ニヤ、と唇の端を上げる彼女は、普段のおっとりとしたお姫様の顔ではなく、闘神を思わせる鋭さを放っていた。

元ギルドの傭兵だという彼女は、こちらの方が素なのかもしれない。
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