Faylay~しあわせの魔法
「まったく本当に、『セルティアの英雄』なんて言われる人がこんな人だったなんて。僕、昔の自分がバカバカしく思えてきました」

ハア、と溜息をつくヴァンガードに、フェイレイは申し訳なさそうに笑う。

「ごめん……」

「おかげで、星府軍に追われていることなんて忘れられて、少し気が楽ですけれどね」

それは嫌味なのか、素直に褒められているのか。

分からないから、フェイレイはただ笑うしかない。



それから食事を宿主に用意してもらい、霧に覆われた街並みを食堂の窓から眺めながら、テーブルに向かい合って朝食をとった。

「今度からは、きちんとノックしていらっしゃいね」

先程フェイレイに鬼の形相で拳と蹴りを喰らわせたのと同一人物であるなど信じられないような、優しい微笑みでローズマリーは言う。

丁度着替え中で、素晴らしいラインの身体を惜しみもなく晒していたところだった。

彼女は全力で怒りの鉄拳を喰らわせた。

夫であるカイン以外の男には、大変厳しいのである。

「はい」

フェイレイは大人しく頷く。

またリディルに白い目で見られるだろうか、とビクビクしていたのだが、黙々とご飯を口に運ぶ彼女は、さして気にしていない様子だ。

ほっとしながら朝食のパンに食らいつくフェイレイを、リディルもまた、そっと盗み見る。

──昨日、ローズマリーに言われたことがあった。

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