Faylay~しあわせの魔法
『貴方たち、気張らないのはいいけれど、ちゃんと周りを見ているのですよ』

耳につけたインカムから、ローズマリーの声が聞こえてくる。

これはセバスチャンに頼んで用意してもらったものだ。彼らには宿で待機してもらっている。

「了解~」

軽く返事をして、空を見上げた。

だいぶ冷え込んできて、吐く息が白くなってきた。銀の月がぼやけてしまっている。

「霧が出てきたな……」

街灯の明かりもゆっくりと忍び寄ってきた霧によって弱められる。

『もうすぐ真夜中だよ』

耳にリディルの声が届いた。

「分かった」

フェイレイはヴァンガードを引っ張りながら、道の街灯が途切れた向こう、闇に飲まれている牧草地へと視線を向けた。

畜産が主要産業だというこの街には、広い牧草地がいくつもある。

もしも相手が魔族で、戦闘になった場合を考慮して、現在は放置されているというこの土地を選んでおいた。

誘拐された令嬢たちはみんな、どこにいても攫われている。

厳重な屋敷の中にいようと、ひっそりと移動をしていても、外国へ逃げても。だからフェイレイたちがどこへ向かおうと敵は追ってくる。

牧草地は街外れにあった宿からもそう離れていないので、リディルの力が届く範囲内だ。

「霧に囲まれると視界が利かないな。気配だけで動くしかないか」

『そのときは、グィーネに霧を飛ばしてもらうから』

「お、そっか」

「助かります」

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