Faylay~しあわせの魔法
風に押し流されていく霧の中から現れたのは、黒い鎧を身に纏った、3メートルはあるのではないかという大柄な男──魔族だった。

厳つい顔の大男は、今にも零れ落ちそうなギョロっとした目をフェイレイに向けると、その巨漢でも大きく見える斧を振り上げ、ぶうんと空気を鳴らして振り下ろしてきた。

さすがにこれは受けられない。軽くいなして距離を取る。斧は地面に突き刺さり、牧草と土が高く飛び散った。

大男から逃げた先にまた別の気配がある。

とんがり帽子を被った、道化師の恰好をした魔族だ。こちらはそれほど大柄ではない。

「これはこれは、ただの執事ではありませんね」

道化師はゆっくりと帽子を取った。

霧の晴れた空から差し込む弱々しい光が、白く塗りたくった顔面に、目と口まわりを黒一色で不気味にペイントし、赤く丸い鼻を異様に目立たせた顔を照らし出した。

「ただの兵士でもなさそうだ。……ギルドの傭兵、といったところでしょうか」

黒で縁取られた口が、ニイ、と歪んだ。

「魔族退治専門の傭兵。なるほど、国を上げて我々を狩ることにしたのですね。結構、結構。あまりにも張り合いが無くて退屈していたところです」

「お前……強いのか」

背後から低く呟き、大男も迫る。

「人型の魔族、三体……ホントに魔族は増えてるんだな」

フェイレイは人間のように喋る魔族が存在することは知っていたが、こうして対峙するのは初めてだった。

「ヴァン、一人で何とかなりそうか?」

インカム越しに訊く。

『な……な、なんとかしますー!』

叫ぶようなヴァンガードの声が響いた。

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