Faylay~しあわせの魔法
「ああ」

女はゾクリとするほど美しい微笑みを浮かべた。

「アライエル王、そして勇者の血筋は全て食らい尽くす。この国だけは他の国のように一瞬で消し去るなんて甘いことはしない。じわじわと追い詰めて、苦しめて、地獄へ堕としてやるのさ」

ぐるんと視界が回転して、いつの間にか今度は手首を掴まれていた。

ゆっくりと紅い唇を舌なめずる女の顔が、目の前にある。

「まずはその耳を削ぎ落としてやろうか。それから顔の皮を剥がしてあげるよ。気を失ったりしないように、指の爪を一枚ずつ剥がして常に痛みを与えてあげるからね。ふふ、楽しみだねぇ。若い娘の叫び声にはゾクゾクさせられる」

ヴァンガードは思わず太腿に付けていたホルスターから魔銃を引き抜いた。

今にも聞こえてきそうな令嬢たちの恐怖と無念の叫びが、彼を突き動かした。

その手は僅かに震えていたけれども、しっかりと額に照準を合わせ、睨みを利かせる。

「おや……お前、公爵家令嬢では……ないようだね」

女の微笑みが、みるみる冷たくなっていく。体内から凍らされるような感覚に耐えながら、歯を食いしばって弾を装填した。

「放せ!」

ドン、という衝撃とともに鋼の精霊の力が放たれる。

鋭い針のような刃がいくつも女の顔に突き刺さったけれど、彼女は表情ひとつ変えなかった。

「そんなものが利くか」

ニヤリ、と笑い、ヴァンガードの手首をパッと放した。

「うわあああああ……」

ヴァンガードの身体は真っ逆さまに闇の中を落ちていく。

「邪魔はさせないよ。私は猊下への『愛』を示さなくてはならないんだ」


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