Faylay~しあわせの魔法
だがそれにしても、魔族の中でもエリートと言われる人型である自分たちのスピードを上回ってくる、彼の身体能力には目を見張るものがあった。

「ククク……面白い人間だ」

道化師は掌で顔を覆い、笑い出した。

「キミの首を猊下への手土産にしましょう」

「げいか?」

それは何だ、と問いかけながら構える。道化師から異様な空気が漂い始めていた。

ふわりと道化師の身体が浮き上がり、右肩から胸までぱっくりと斬れたまま、黒く縁取られた唇を不気味に歪ませる。

すると、ぼん、と軽い爆発音とともに、黒煙があたりにモクモクと広がった。道化師の姿はそれに隠されてしまう。

「なんだ、今度は何をするつもりだ!」

視界を覆われても五感をフルに使って辺りの様子を伺う。

黒煙の向こうの空気が、やけに静謐な流れをしているのを感じた。

「リディル──」

女王を召喚する前の、一瞬の静けさ。

「駄目だ、もう何人召喚したと思ってるんだ」

小さな精霊たちをただ召喚するだけなら長時間傍に置くことも可能だが、今のように戦闘に参加してもらうとなると、魔力も体力も著しく消耗するのだ。

その上に未知の力を持つ女王を召喚だなど。

いくらこの数日でリディルの体力が向上したとはいっても、そんなに急に変われるものではないのに。

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