Faylay~しあわせの魔法
『ここにいる人たち、みんな倒して』
そう“お願い”されたフェイレイは、深海色の瞳を赤く濁らせながら、リディルの姿をしている者の背に、そっと手を回した。
それを感じ、『リディル』はフェイレイの肩に頬を寄せながら、妖しげな笑みを浮かべる。
分かりやすく単純な者ほど、暗示にかかりやすい。
ここにいるギルドの傭兵の中で、フェイレイが一番単純で暗示にかかりやすい体質だと、道化師は見抜いていた。
どんなに綺麗な心を持っていても、それを回避することは不可能──。
自分たちの勝利を確信した道化師は、黒煙を晴らし、彼の仲間たちのもとへ送り出そうとフェイレイから離れようとした。
だが。
フェイレイが背中に回した手が、ぐっ、と『リディル』の服を掴んだ。
道化師が不思議に思う間も無く、フェイレイは自分から『リディル』を引き剥がすと、思い切り牧草の上に投げ飛ばした。
「な……!」
赤く濁る翡翠の瞳を見開き、リディルの姿をした道化師は牧草の中から身を起こす。
フェイレイは深海色の瞳を赤く濁らせたまま、ゆっくりと道化師に向かって歩いてきた。
すぐ目の前まで来たとき、やっとその瞳の中に宿る怒りに気づいた。
背筋が凍りつくような、怒りの青い炎。
「……お前、リディルに謝れ」
その身体から滲み出てくる覇気に、ふわりと赤い髪の毛が靡く。
フェイレイは、剣を構えた。
「リディルが思ってもいないことを、平気な顔で言うんじゃねぇ──!!」