Faylay~しあわせの魔法
振り下ろされた剣からは、凄まじい気が飛び出した。

剣圧だけで道化師の身体は吹き飛ばされ、身体がバラバラに飛び散る。

予想外だった。

フェイレイの赤く濁った瞳は、操られ、幻を見せられている状態だということを如実に表している。

彼は完全に術に嵌っているのだ。

なのに何故──目の前にいるのが『リディル』ではないと、気づいているのだろうか。

道化師はバラバラになった身体を必死に集め、牧草の上に座り込みながら後退った。

「ま、待って、フェイ!」

『リディル』の声でフェイレイを制止する。

「私じゃない! 私じゃなくて、他の人たちを……」

「ああ、全部やっつけてやるよ。お前を倒してからな!」

ゴオ、と道化師の顔を凄まじい覇気が撫で付けていく。それだけでビリビリと身体が痺れ、身体が動かなくなった。


なんだ、こいつは。

道化師は薄ら寒さを覚えた。

こんな覇気、ただの人間のものではない──


「やめてフェイ、私は……」

「いつまでもリディルのフリすんな!」

恐怖を顔に張り付かせて怯えるフリをする道化師に、フェイレイは更に剣を振り落とした。

「本物のリディルは、お前なんかより百万倍もかわいいんだ──!!!」

その、一閃で。

怒りを力に変換された剣は、道化師の悲鳴まで飲み込んで、跡形もなく消し去った。
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