Faylay~しあわせの魔法
炎自体は熱くない。ティナの炎は決してリディルを傷つけたりはしない。

けれど、女の巻き起こしていく突風がリディルの身体を切り刻んでいった。無数に出来た細かい傷は、ひとつひとつは大したものではない。

けれど女王召喚という負荷がかかっているリディルにとっては、それすら致命傷になる。

足をふらつかせると、小さな森の精霊たちがリディルの周りを取り囲んだ。

離れたところからヴァンガードが撃ってきたのだ。

それで女の注意が彼へ向いてしまった。

「王の血を持たないお前など、なんの価値もない。消えてしまえ!」

ぐわ、と空気が音を立てて、牧草の上に転がっていたヴァンガードに襲い掛かっていく。

「ヴァン!」

リディルは咄嗟にティナの女王をヴァンガードの前に差し向けた。

目にも見えないスピードで突っ込んできた女は、ティナの女王の炎に阻まれた。ぶつかり、交じり合う双方の力が竜巻のようになって巻き上がり、巨大な火柱が空高く立ち昇った。

力は今のところ拮抗しているが、もうリディルの体力が持たない。

「リディルさん!」

ヴァンガードは身を起こし、魔銃を構える。

だがもう魔力が尽きていて、通常弾しか使えなかった。これでは魔族には効かないのだ。

「フェイレイさん……」

何とかしてくれそうな人物の名を呟いてみるが、彼も戦闘の真っ只中だ。だからリディルも危険を承知で女王を召喚したのだ。
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